最近では、主人公が聴覚障害を持つ女性の『アイ・ラブ・ユー』、あるいは児童虐待問題のアニメ
『ハッピー・バースデー』という作品。一般の娯楽映画とは違い、テーマを持って広く地域上映を目指す映画を
製作配給する会社だ。東京本社の東北ブランチに長く勤めていたが、「東北人として、21世紀は東北を起点とした
発想を広げなくては」と一大奮起。会社の同意を得、仕事をそのまま引き継ぐ形で独立するに至った。
浅黒く精悍なマスクの持ち主。話題ごとにその表情と所作が、小気味よく動く。映画と向き合ううちに備わった
ものか、生まれ持った資質なのか。
学生運動の波にもまれた団塊の世代でもある。「直接は関わらなかったけれど、問題意識が常にあった。就職の時
点で『お前はどう生きて行くんだ?』と時代から突きつけられた思いでね」。結局、安穏と就職することを拒み、
決まっていた銀行を辞退してこの道を選んだ。「変わっているといわれるけど、世の中にはこういう人間がいないと
バランスが取れないでしょ」と屈託ない。
テーマごとに地域運動を展開して上映に漕ぎ着ける。スタッフ6名の会社では年間3〜5本が精一杯で、
ボランティア的な部分が大きい。が、会場が満員になった時の手応えと喜びは、筆舌に尽くせないらしい。「例え
ば『ハッピー・バースデー』では、超ミニ・厚底サンダルの女の子たちが真剣に観ている。ガキ大将が家族と一緒
に涙を拭いている。低学年の子たちも引き込まれて、身じろぎもしない。それを見て、こっちも大感動でね。マス
コミの報道では暗い面ばかり取り上げがちですが、子どもたちの心はまだまだ純粋なんです」。満面の笑みだ。
日本を愛する気持ちは人一倍強いと自認する。「自らが生まれた地域を愛し、
家族や友を愛することから、本当の国を愛する心が育まれるのではないでしょうか。過去や歴史、
お年寄りの生き方を知ることも大切。自分の町で家族と一緒に映画を観て、感動を共有することの意義
はそこにあるんです」。さらりと語るが、明確な意志をはらんだ言葉は聞く者の胸に響いてくる。
「東北から発信する一作目が動き始めましてね」、表情が一段と輝き出した。「豊かな古代東北に、
大和が蝦夷征伐などと攻めてきた。これに敢然と立ち向かったアテルイという勇者がいた。この実話をアニメーシ
ョンにして、子どもたちに伝えたいんです。東北に生まれたことを誇れるように」。東北から全国へと新しいパワー
が波及するにに違いない。すべてを可能にする情熱だ。「協力者は大歓迎。他にもやるべきことは山積みですし」。
まさに『現代のアテルイ』――心から応援したい。